組込みエンジニアは未経験にはきつい?入社1年目で戸惑ったこと
「未経験で組込みエンジニアになっても、現場でついていけないのでは」。転職を考え始めた人が最後まで消せないのが、この不安だと思います。
先に結論を言います。最初の1年は、正直きついです。ただし、それは「入社前の勉強が足りなかったから」ではありません。組込みの現場は、そもそも入社してからでないと学べない知識で動いているからです。だから企業も「入社時点で全部できる人」ではなく「入ってから覚えられる人」を採っています。
<自己紹介>筆者は機械系のテストエンジニアから、プログラミングほぼ未経験で車載組込みソフトの現場に飛び込んだ、現役の車載組込みエンジニアです。この記事では、その1年目に実際に何に戸惑い、どう乗り越え、いま振り返ってどう思うかを正直に書きます。「やめとけ」系の一般論ではなく、中にいる人間の記録として読んでください。
目次
結論:最初はきつい。ただし「入ってから覚える」前提の世界
未経験入社の1年目が大変なのは事実。ただし現場の知識の大半は入社前には学べない「企業ノウハウ」なので、戸惑うこと自体が織り込み済みです。入社前に完璧である必要はありません。
検索すると「組込みエンジニアはやめとけ」「きつい」という記事がたくさん出てきます。残業が多い、覚えることが多い、納期が厳しい。理由の列挙としては間違っていません。
ただ、ああいう記事の多くは現場の外から書かれた一般論です。実際に未経験で入った人間として言えるのは、きつさの正体は「特別に過酷な労働」ではなく、「何も分からない状態が数か月続くこと」だという点です。そしてそれは、事前に知っていれば耐え方が変わります。参考までに、私の1年目のリアルな数字はこのくらいでした。
1年目の残業
2年目以降の残業
自走できるまで
1年目に自走できないのは普通
「やめとけ」の評判そのものが本当かどうかは、こちらの記事で7つの理由を検証しています。目指すか自体を迷っているなら、先にそちらを読むのもおすすめです。
また、いまの仕事がソフトと無縁の異業種で、そもそも自分に目指せるのか不安な人は、その疑問にも別記事で答えています。
私が1年目に戸惑ったこと【体験談】
1年目で一番苦労したのは、とにかく覚えることが膨大だったことです。具体的にはこの5つでした。
- 開発ツールの使い方:現場ごとに専用ツールがあり、操作を覚えるだけで一苦労
- プロジェクトごとのルール:コードの書き方から手続きまで、プロジェクト固有の決まりごとが大量にある
- 開発している製品そのものの知見:自分が触るソフトが「何を動かしているのか」を理解するまでが長い
- 車載特有の技術:ダイアグ・CAN・AUTOSARといった、独学ではまず触れない領域
- 実機の操作方法:実際の機材を安全に動かす手順は、現場でしか学べない
- ダイアグ
- 車の故障診断機能。故障を検出し記録する仕組みで、車載ソフト開発の必須知識。
- CAN
- 車載でよく使われる通信規格。ECU(車載コンピュータ)同士が情報をやり取りする共通の通り道。
- AUTOSAR
- 車載ソフトウェアの世界標準規格。車載業界の設計はこの規格を前提に進むことが多い。
なお、ここに出てくる車載の仕事そのものの中身(何を作っていて、なぜ品質に厳しいのか)は車載組込みソフトとは?の記事で解説しています。
入社してすぐ、車載特有の用語が飛び交う会議で何も分からず、マイコンのデータシートを渡されても読み方すら分かりませんでした。ただ、しばらくして気づいたんです。これは入社前に勉強できるものでもないので、入社後に勉強するしかないんだな、と。そう割り切ってからは、焦りが「一つずつ潰す」に変わりました。
もう1つ、正直に書いておきたい戸惑いがあります。私は転職前にArduinoで作品を作っていたので、「どんな業務が来てもある程度対応できるだろう」と内心思っていました。結果は、全然通用しませんでした。Arduinoで学んだことが無駄だったのではなく、現場の知識の量と深さが桁違いだった、というのが正確なところです。
なぜ戸惑うのが「当たり前」なのか
ここが、この記事で一番伝えたいことです。
上に挙げた5つは、どれも学校や独学ではほぼ学べません。開発ツールもプロジェクトのルールも製品の知見も、その会社に入って初めてアクセスできる企業ノウハウだからです。つまり、未経験者が入社直後に「何も分からない」のは、能力の問題ではなく構造の問題です。
逆に言えば、入社時点で全部知っている必要はありません。だからこそ採用で見られるのは「いま何を知っているか」ではなく「入ってから吸収できるか」、つまり伸びしろです。私も1年目にこの構造を理解して、ようやく納得できました。会社は最初から即戦力だなんて思っていない。それなら、変に取り繕うより吸収の速さで応えるほうがいい。
1年目の戸惑いは「自分は向いていない」のサインではありません。誰もが通る通過儀礼です。戸惑うこと自体を、適性がない証拠だと誤読しないでください。
入社後に本当に必要だったスキル3つ
では、技術以外も含めて実際に何が求められたか。1年目を過ごして「これが本体だ」と感じたスキルは3つです。
チーム開発の力
組込み開発は複数人での開発が前提。報告・連絡・相談を含むコミュニケーションは避けられません。
ドキュメント作成力
膨大なプログラムをコードだけで理解・管理するのは不可能。設計書や資料を分かりやすく書く力が常に問われます。
プログラミング能力
研修が終われば当然しっかり求められます。採用時に問われなかった分、入社後とのギャップが一番大きいのはここ。
このうちチーム開発の力に関して、1年目の私が一番助けられた工夫が「質問の仕方」でした。分からないことだらけの時期こそ、聞き方で信頼が決まります。
まず自分で調べる。ただし悩む時間に制限を設けて、超えたら「ここまで調べて、ここが分からない」と聞く。考えた形跡を添えるだけで先輩の反応が変わります。
開口一番「分かりません」。調べた形跡のない質問は、答える側の負担をそのまま増やします。逆に、抱え込んで何時間も止まるのも同じくらい問題です。
転職前にやっておくと楽になる準備
「入社前には学べない」と書きましたが、ゼロ準備でいいという意味ではありません。1年目の負荷を下げる準備はあります。私が「転職前に戻れるならやっておく」と思うのは、この3つです。
- C言語の基礎を固めておく(現場のコードを読む最低条件)
- IT関係の資格を1つ取っておく(体系的な基礎知識は入社後の吸収速度を上げる)
- マイコンで動くものを1つ作っておく(ハードとソフトがつながる感覚を先に持てる)
特に資格については、私自身「1つくらい取っておきたかった」というのが正直な後悔です。現場の知識は入社後にしか学べませんが、それを吸収する速さを支える基礎知識は先に作れます。何から始めるかは、全体の道のりと合わせて下の記事で整理しています。
よくある質問(FAQ)
残業はどのくらいありますか?
私の場合、1年目は月20時間ほど、任される仕事が増えた2年目からは月40時間ほどでした。時期やプロジェクトによる波はあります。業界全体の労働条件は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査など公的な統計も参考にしてください。
「ついていけない感」はいつまで続きますか?
私が1つのタスクを自分の力で最後まで進められるようになったのは、2年目から3年目にかけてでした。裏を返せば、1年目に自走できないのは普通です。周りもそれを分かって仕事を振っています。
入社前にどこまで勉強しておくべきですか?
C言語の基礎と、できれば小さな作品を1つ。それ以上の現場知識は、入ってからのほうが効率よく学べます。事前学習は「完璧にする」より「学び方に慣れておく」つもりでやるのがちょうどいいです。
まとめ|それでも転職してよかった理由
1年目のきつさを正直に書いてきましたが、私の結論は「それでも転職してよかった。むしろもっと早く転職すればよかった」です。理由は2つあります。
1つ目は、市場価値が前職より圧倒的に上がったと実感していることです。組込みは技術力のある人材が慢性的に足りない業界なので、ここでキャリアを積むこと自体が資産になります。
2つ目は、精神的な安定です。「最悪、ほかの会社でも働ける」という感覚は、日々の仕事への向き合い方まで変えてくれました。1年目の戸惑いは、この2つを手に入れるための入場料だったと思っています。
戸惑う準備ができたら、次は転職の準備です。書類や応募先選びで私が実際にやったことを、下の記事にまとめています。