「組込みエンジニアはやめとけ」は本当か?現役エンジニアが本音で回答
この記事は「組込みエンジニアはやめとけ」という評判を見て、目指すかどうか迷っている人に向けたものです。検索すると否定的な意見がずらりと並ぶので、踏み出す前に不安になるのは当然だと思います。
先に私の結論を書きます。「やめとけ」は半分は本当で、半分は誤解です。きつい部分はたしかにありますが、その多くは会社選びと、向き不向き、そしてやる気しだいで変わります。だから「万人にやめとけ」ではなく、「この条件に当てはまる人はやめた方がいい」という話でしかありません。
<自己紹介>筆者は機械系のテストエンジニアから、プログラミングほぼ未経験で車載組込みソフトの現場に転職した、現役の車載組込みソフトエンジニアです。ネットに並ぶ「やめとけ」の理由を、現役組込みエンジニアの私が回答します。
目次
結論:「やめとけ」は半分本当・半分誤解
まず、ネットでよく挙がる「やめとけ」と言われる理由を、私の実感で仕分けしてみます。現役エンジニアとして働いてきて、「これは本当」「これは誇張」「これは会社・人による」のどれに当たるかを、正直に判定したのが次の表です。
| よく言われる理由 | 私の判定 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 残業が多い・激務 | 誇張ぎみ | 私の実測は1年目で月20時間ほど |
| 求められるスキルが高い | 本当 | ただし入社後に覚える前提の世界 |
| 責任・プレッシャーが重い | 本当 | 特に車載。裏返せば価値の源でもある |
| ずっと勉強し続ける必要がある | 本当 | でも成長実感が得られるのは長所 |
| 給料がスキルに見合わない | 誇張 | 私は3〜4年目で600万円ほどに |
| 地味でやりがいがない | 人による | モノが動く・成長が見える仕事 |
| キャリアの選択肢が狭い | 誇張 | 技術者不足で市場価値は高い |
この表を見て分かるとおり、全部が嘘というわけではありません。きついものはきついです。ただ「だから目指すのをやめろ」という話ではなく、一つずつ中身を見ていくと、自分に当てはまるかどうかが分かれます。以下で、特に気になるものを検証していきます。
「やめとけ」と言われる理由を実データで検証する
残業・激務はどのくらい本当か
「組込みは残業が多くて激務」というのは、やめとけ記事の定番です。人手不足で一人あたりの仕事量が多い、納期前は深夜まで、休日出勤も、といった書かれ方をよく見ます。
私の実際の残業時間を出します。1年目は月20時間ほど、任される仕事が増えた2年目からは月30~40時間ほどでした。深夜や休日にまで追い込まれた記憶は、少なくとも私の職場では常態化されていないです。もちろん納期直前に忙しくなる波はありますが、「激務」という言葉から想像するほどではない、というのが正直なところです。
1年目で月20時間、2年目から月40時間ほど。この数字が多いか少ないかは人によりますが、「深夜まで毎日」といった煽りとは、私の体感はかなり違います。ここは会社やプロジェクトによる差が一番大きい部分なので、求人を見るときに残業実績を必ず確認してください。
つまり残業のきつさは、職業そのものというより会社しだいです。入社後についていけるか、1年目が実際どうだったかは、こちらの記事に詳しく書きました。
求められるスキルが高すぎる
これは本当です。組込みはC言語やC++に加えて、ソフトだけでなくハードの知識も必要になります。覚えることの量は、正直かなり多いです。
ただ、勘違いしてほしくないのは、その大半は入社してからでないと学べないという点です。開発ツールの使い方、プロジェクトごとのルール、製品そのものの知見、車載ならダイアグやCANといった領域は、学校や独学ではまず触れられない企業ノウハウです。だから会社も未経験転職や新卒採用の場合は「入社時点で全部できる人」ではなく「入ってから覚えられる人」を採っています。
私自身、転職前にArduinoで作品を作っていたので「ある程度は対応できるだろう」と思っていましたが、現場では全然通用しませんでした。ただそれは能力の問題ではなく、現場の知識の量と深さが桁違いだっただけです。ひととおり自走できるようになったのは、2年目から3年目にかけてでした。最初の1年で完璧を求められているわけではありません。
責任・プレッシャーが重い
これも本当です。そして、これは私が一番正直に伝えておきたい部分でもあります。
私がいる車載の世界は、WebアプリやWeb開発と違って、不具合が出たときのリカバリーが大変です。市場に出た後で不具合が見つかると、リコールになり、ディーラーで1台1台ソフトを書き換える(リプログラミング)必要が出てきます。何十万台を一斉に、というわけにはいきません。最近はOTA(無線でソフトを更新する仕組み)で直せる範囲も増えてきましたが、基本は簡単には直せない前提で作ります。
しかも車載の不具合は、そのまま重大な事故につながる可能性があります。ここは相応の責任を感じますし、緊張感のある仕事です。
責任の重さは車載に限りません。たとえば家電でも、市場で不具合が出れば製品の故障や、最悪は発火といった事故につながることがあります。しかも家電も気軽にソフトを書き換えられない製品が多い。組込みは分野を問わず「ミスが許されにくい」仕事だと思っておいた方がいいです。
ではこれが「やめとけ」の理由になるかというと、私はそうは思いません。責任が重いということは、それだけ社会に必要とされ、代わりがきかない仕事だということです。あとで書く「市場価値の高さ」は、この責任の裏返しでもあります。
給料がスキルに見合わない
「これだけ大変なのに給料が安い」という声もよく見ます。これは私の実感では誇張です。
正直に書くと、未経験転職なので入社1年目は420万円ほどと、けっして高くはありませんでした。ただ3〜4年目には、残業代込みではありますが600万円ほどになりました。30歳前後で600万円もらえるなら、世間一般から見て十分だと私は感じています。少なくとも「割に合わない」と思ったことはありません。
未経験入社の1年目
3〜4年目(30歳前後)
残業代込み
もちろん最初から高いわけではなく、スキルが積み上がってから上がっていく形です。業界全体の水準は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査などの公的データも合わせて見てみてください。年収については、未経験で入るときの提示額から年代別の伸び方、私の給料の内訳まで別記事で詳しくまとめました。
地味でやりがいがない
最後に「地味でやりがいがない」という意見。これは人によります。私にとっては、むしろ逆です。
必要な知識や技術が膨大なぶん大変ですが、毎年ちゃんと成長している実感が得られるのがこの仕事のいいところだと思っています。私はもともと技術で食べていきたいタイプなので、自分の技術力が目に見えて伸びていくこの業界は、単純に好きです。自分の書いたソフトが実際の製品として動く手応えもあります。派手さはないかもしれませんが、やりがいがないと感じたことはありません。
それでも私が「転職してよかった」と思う理由
ここまで正直にきつい面も書いてきましたが、私の結論は「転職してよかった。むしろもっと早く転職すればよかった」です。
まず、本気で「辞めたい」と思ったことがあるかというと、実はありません。最初にプロジェクトに入ったときは、製品ごとに膨大な技術資料があって、「自分にやっていけるのかな」という不安はたしかにありました。でもやってみると意外と何とかなるもので、過去の資料を読んだり、先輩や上司に質問したりしながら乗り越えられました。しんどいと思った時期はありましたが、辞めたいとまでは思わずに耐えられた、というのが本当のところです。
そのうえで、転職してよかったと言い切れる理由は2つあります。
1つ目は、市場価値が前職より圧倒的に上がった実感です。組込みは技術力のある人材が慢性的に足りない業界なので、ここでキャリアを積むこと自体が資産になります。「キャリアの選択肢が狭い」という不安とは、私の体感はむしろ逆でした。
2つ目は、精神的な安定です。「最悪、ほかの会社でも働ける」という感覚は、日々の仕事の向き合い方まで変えてくれました。この安心感は、大変さを補って余りあると感じています。
本当に「やめとけ」な人と、むしろ向いている人
ここまでを踏まえて、「やめた方がいい人」と「向いている人」を私の実感で分けてみます。冒頭で書いたとおり、組込みは万人向けではありませんが、万人が避けるべき仕事でもありません。
もう1つ、人だけでなく「会社選び」も大事です。同じ組込みでも、入る会社で働き方はかなり変わります。
SESという働き方そのものが悪いわけではありませんが、エンジニア以外の派遣(コールセンターや家電量販店など)まで幅広く手がけている会社は、少し慎重に見た方がいいです。エンジニア派遣を専門にしている会社なら、技術者として育つ環境が期待できます。求人を見るときは、その会社が何を専門にしているかを確認してください。
自分がどちら寄りかを、下のチェックリストで確かめてみてください。当てはまるものが多いほど、組込みは向いています。
- 自分の書いたものが実際に動くのを見たい
- うまくいかない原因を、地道に調べて突き止めるのが苦にならない
- 新しい技術を学び続けるのを面白いと思える
- 数学やPC作業に強い苦手意識はない
- チームでのやり取りを避けたいとまでは思わない
それでも目指すと決めたなら、何から始めるか
ここまで読んで「きつい面はあるけど、自分は向いていそうだ」と思えたなら、次は具体的な道のりです。未経験からどういう順番で学び、どう転職まで持っていくかは、全体像を一枚にまとめた記事があります。まずはここから読むのがおすすめです。
「そもそも組込みエンジニアって何をする仕事なのか」がまだあいまいなら、先にこちらで全体像をつかんでください。
「自分は文系・異業種出身だけど大丈夫か」という不安がある人は、異分野から目指せるのかを整理した記事も用意しています。
よくある質問(FAQ)
組込みエンジニアに将来性はありますか?
私は十分にあると考えています。自動車のEV化や、あらゆる機器がネットにつながるIoTの広がりで、組込みソフトを書ける人はむしろ足りていません。IT人材の不足は国の調査でも指摘されていて、その中でも組込みは代わりのききにくい分野です。将来性そのものは、需給データと現場の実感で掘り下げた組込みエンジニアの将来性は?現役が需給データと現場の実感で回答で詳しく解説しています。
年収は低いのでしょうか?
スタートは高くありません。私も未経験入社の1年目は420万円ほどでした。ただ、スキルが積み上がると上がっていく職種で、私は3〜4年目に残業代込みで600万円ほどになりました。最初の数字だけを見て判断しない方がいいです。公的データでの年代別の水準や、私の給料の内訳は組込みエンジニアの年収の記事にまとめています。
未経験でも本当に入れますか?
入れます。私自身がプログラミングほぼ未経験の機械系出身から転職しました。人手不足の業界なので、伸びしろを見て未経験を採る会社は実際にあります。ただし求人によって条件が違うので、応募前に「未経験可か」を確認してください。
文系でも目指せますか?
目指せます。理系が多い職種なのは事実ですが、文系出身の人も現場にいます。数学に極端な苦手意識がなく、学び続ける気があれば十分にやっていけます。実務で使う数学のレベルと、文系が採用で示すべきものは組込みエンジニアは文系でもなれるかの記事に整理しています。
まとめ|やめとけ、ではなく「向いてるなら、こう始めればいい」
「組込みエンジニアはやめとけ」という評判は、半分は本当です。スキルの習得も、責任の重さも、実際にあります。ただ残業や給料のように誇張されている部分もあり、きつさの多くは会社選びと本人の向き不向きで変わります。
私自身は、大変さを差し引いても「転職してよかった、もっと早く動けばよかった」と思っています。あなたが向いている側にいるなら、「やめとけ」の一言で諦めるのはもったいないです。次にやることは、全体の道のりを知って、最初の一歩を決めることです。